この上なく美しい。
ベルナルト・ハイティンクが指揮棒を振るグスタフ・マーラーの交響曲第9番。演奏はベルリン・フィルハーモニー管弦楽団。ハイティンクは長年にわたりマーラー作品と深く向き合い、数々の名盤を残している。バイエルン放送交響楽団による第9番も聴いてみる。演奏時間は79分だ。
この10分には何があるのだろう。
それは単にテンポが遅いのではない。たっぷりと「表現する時間」があるということ。音と音の連なりの中に、確かな「間」が存在する。
急いで次のフレーズへ向かうのではなく、その瞬間に感情を沈めるための深さ。表現する時間があるということは、それだけで途方もなく豊かなことだ。
聴き直してみた。
それは時の「あいだ」に存在する「間」だけではなかった。音が鳴る前の大きく息を吸い込む呼吸の時。
その時、ハイティンクはなにを思い、指揮棒の先は何を描いているのか。
見えないものを描くために、彼にはどうしてもこの89分が必要だったのだ。